光子対の量子状態制御の為の量子ドット技術
量子ドットを用いた光通信デバイスの偏光無依存化、および将来の量子通信に必要なもつれ合い光子対発生のためには、高い対称性を持つ電子の波動関数を実現する必要があります。当研究室では、半導体量子ドットの構造対称性に関する、エックス線回折測定やフォトルミネッセンス(PL)の偏光測定を用いた最新の評価技術の開発と、半導体量子ドットの化学合成技術の研究を行なっています。
これまで我々は、短周期積層成長によって作製するコラムナ型InAs量子ドットの結晶歪み分布とPL直線偏光特性、また埋め込みInGaAs量子ドットの偏光温度依存性を評価し、各量子ドットにおける量子もつれ合い光子発生のための構造制御を行なってきました。図1はコラムナ型InAs量子ドットの発光スペクトルを、変更方向の違いで比較した様子です。積層数が増えて結晶歪が増加すると基底準位の発光強度が変化し、偏光の異方性が強くなることが分かります。図2は埋め込みInGaAs量子ドットにおける偏光方向による発行強度の違いの温度依存性を示しています。低温で偏光の対称性が改善していることが分かります。In組成が高いほど対称性は向上し、また温度に対する偏光強度比の変化が顕著になる傾向が見られます。
※数値はIn組成
※nは積層数
現在、水溶液や有機溶媒を用いて構造対称性に優れたPbS及びInAs半導体量子ドットを化学合成するとともに、量子相関測定を用いた単一光子放出の確認、偏光相関光子対の生成の検討を進めています。図3は合成PbS量子ドットのTEM観察像です。反応液の過飽和度に着目して合成温度・合成時間・原料比を変化させることで、構造対称性が改善されました。図4は諸条件で合成したPbS量子ドットのPLスペクトルです。光通信帯波長である1.3μm~1.55μmでの発光を確認しています。
ピーク波長=1260nm(紫), 1300nm(青), 1432nm(桃), 1500nm(赤), 1530nm(水色)