量子ドット超格子の製造と太陽電池への応用

 

量子ドット(QD)は、直径が数nm(ナノメートル)の半導体微結晶であり、様々な量子効果を生み出すため注目されています。QD中には電子と正孔をペアで閉じ込めることができ、まさに人工の原子とも言うべきものです。このQDを高密度に配列(超格子構造)させると、個々のQD中の電子の波動関数が重なり合うようになり、その結果、元の結晶にはなかった新しいエネルギー帯(ミニバンド)が形成されます。この人工のエネルギー帯には、新しい応用が期待されます。我々は、化学合成によって製造されたQDを用いて、このQD超格子を実現する研究を行っています。

QD超格子の第一の応用分野は、太陽電池です。現在のシリコン太陽電池のエネルギー変換効率は最大でも30%以下と見込まれているのに対し、QDを太陽電池に用いると70%以上の変換効率を望めることが、理論的に予想されています。しかしその為には、ミニバンドを自在に形成する必要があります。これまでQD太陽電池は、半導体レーザなどと同じエピタキシャル成長法によって、その実現が検討されてきました。しかしエピタキシャル成長法では、充分高均一なQDの配列構造を、高い量子効率を維持したまま実現することが極端に難しく、試作された太陽電池の変換効率は非常に低い値に留まっています。

我々は、化学合成QDによって超格子構造を作製し、高効率の太陽電池を実現する試みを行っています。図1に示したのは化学合成QDの配列の様子であり、(a)は透過型電子顕微鏡(TEM)写真、(b)は走査型プローブ顕微鏡(SPM)写真です。このような規則配列を3次元的に広げ、できるだけ大きなQD超格子膜を作製することを検討しています。
図1(b) QDのSPM像
図1(a) QDのTEM像


試作したQD超格子を、図2に示すようにITO透明電極などで挟めば、QD超格子太陽電池が実現します。

図2 QD超格子太陽電池の概念図


化学合成QDによって超格子を実現するために我々は、配列を促すテンプレート(加工した半導体基板)を用いる方法を検討しています。

例えば、図3に示すようにQD程度の高さを持ち、幅や位相をコントロールした周期的ガイド構造上にQDを液中沈降させ、一層目のQDを配列します。このガイド構造は、SPM(走査型プローブ顕微鏡)を用いた陽極酸化によって作製可能です。二層目以降に沈降する量子ドットは、一層目に沿って配列します。

また図4のように、異方性エッチングを用いて形成したV溝基板を用いる方法も検討しています。
図3 ガイド構造を用いた超格子構造作製プロセス
図4 V字型溝テンプレート

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